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  • ー注文住宅の設計を成功させる実践ガイド:暮らし・性能・コストを両立する進め方ー

ー注文住宅の設計を成功させる実践ガイド:暮らし・性能・コストを両立する進め方ー

設計の出発点:暮らしの解像度を上げる

「どんな家に住みたいか」を図面に落とす前に、「どんな時間を過ごしたいか」を言語化します。朝の動き、洗濯の干し場、子どもの成長、在宅ワーク、来客頻度など、生活の“場面”を細かく想像すると、後の迷いが減り、ブレない設計軸になります。

ヒアリングシートの作り方

・家族構成と将来の変化(独立・同居・介護)
・家事の優先順位(洗濯・掃除・料理・片付け)
・モノの量と置き場(趣味・仕事・学用品)
・来客・在宅勤務・ペットなど特殊要件
“必須/できれば/不要”の三段階で優先順位をつけます。

面積ではなく機能で考える

廊下を短く、居場所を多く。延床を増やす前に、兼用・可変・共有の発想で面積効率を高めます。たとえば和室は客間+書斎+キッズスペースを兼ねられます。

ゾーニングと動線:暮らし心地を決める骨格

ゾーニングは「静(寝室・書斎)」「動(LDK)」「サービス(水回り・収納)」の三層を基準に、光や風、視線、音の流れを整理していきます。動線は短さだけでなく、交差しにくさと回遊性も評価軸にすると、毎日の小さなストレスが消えていきます。

家事動線の鉄則

・洗う→干す→しまうを一直線または回遊で結ぶ
・玄関近くに土間収納+手洗いで持込汚れをブロック
・買い物動線は駐車場→パントリー→キッチンを最短に

採光・通風・眺望の設計

南だけを盲信せず、朝は東、夏は北の安定光、冬は南の取得と庇で調整。開口は「高さ」「位置」「ガラス種」で質が変わり、視線の抜けを作ると面積以上に広く感じます。

性能設計:断熱・気密・耐震の目標を数値で持つ

見えない性能は、暮らしの質と光熱費、健康に直結します。設計段階で断熱等級やC値(気密)、耐震等級の目標値を合意し、窓・断熱材・換気方式の選択をブレなく進めます。

断熱と窓の基本

・外皮性能は“窓”が要。サッシ種とガラス構成を優先決定
・日射取得/遮蔽を季節別に設計、庇・ブラインドも前提化
・玄関・勝手口も断熱ドアで熱欠損を抑える

気密と換気の関係

気密が低いと計画換気が崩れます。C値の実測を行い、ダクト経路を短く滑らかに。第一種換気はメンテ計画、第三種は負圧と隙間風の影響を確認します。

構造・耐震の考え方

耐震等級はプランの早期に決め、開口バランスと耐力壁配置を先に確保。積雪・風圧・地盤条件も踏まえ、将来の間取り変更に配慮して柱・梁の通りを整えます。

設備計画:快適と省エネを両立する仕組み

間取りだけでなく、空調・給湯・給排気・照明が暮らしの快適性を左右します。初期費用とランニング、更新周期まで含めて、住み始めてからの総コストで判断しましょう。

空調計画のコツ

・全館空調か個別エアコンかは躯体性能と家族の在室パターンで選択
・暖房主役はヒートポンプを基本に、輻射・床下利用も検討
・エアコン設置位置は風の通り道とメンテ性を優先

給湯・給水・換気

・給湯は負荷曲線に合わせて容量選定、配管はヘッダー方式で待ち時間短縮
・水回りは将来更新を見据えた点検口とクリアランス
・換気口やフィルター掃除のしやすさは習慣化の鍵

内装・収納・照明:使いやすさと居心地の調律

素材選びは見た目だけでなく、清掃性・耐久性・経年変化も評価します。収納は“量”より“位置と寸法の適合度”が重要で、照明は「明るさ」より「配灯と制御」で印象が決まります。

収納計画の考え方

・家族の“動線の途中”に置ける場所へ配置
・可動棚のピッチ、ハンガーパイプ高さ、奥行きを実サイズで検証
・季節物は天井高を活かした縦方向の確保

照明とコンセント

・ベースライト+タスク+アクセントの三層構成
・調光・色温度の切替で昼夜の活動をサポート
・掃除・充電・ワーク用のコンセント位置と回路分けを早期決定

図面と確認プロセス:ミスを減らす段取り

図面は「意思決定の記録」です。基本設計図から実施設計図に進むごとに、寸法・納まり・仕様が精緻化されます。紙でもデジタルでも、最新版の管理と差分の見える化が重要です。

図面の種類と見るポイント

・平面図:寸法補助線、建具開き勝手、床段差
・立面図:開口位置と外観バランス、庇・樋の納まり
・断面図:天井高、吹抜け、階段勾配
・展開図・設備図:造作寸法、配管・ダクト干渉

モックアップとサンプル確認

・造作カウンター高さや手摺形状は現場モックで体感
・床材・壁材はA4以上で色合わせ、照明下で再確認
・外装材は日向と日陰で見え方が変わるため屋外で確認

コストコントロール:設計で予算に合わせる技術

見積が出てから慌てて削るより、設計の初期から“使いどころと省くところ”を明確にします。躯体・窓・断熱に投資し、仕上げは面積を抑える、造作は要点集中が基本です。

VE(価値工学)の進め方

・同等性能の代替案を横比較(窓種、断熱厚、仕上材)
・寸法を10%刻みで調整、開口数を最適化
・外構・照明・カーテン・家具は別枠計上し優先順位を付ける

減額の落とし穴

・サッシや断熱のグレードダウンは光熱費と快適性に跳ね返る
・メンテ困難な素材は長期コストを押し上げる
・位置変更の多い造作は現場手間を増やし結局割高

スケジュールと意思決定:迷いを減らす仕組み

設計は決め事の連続です。締切と選択肢の“幅”を先に定め、迷っても戻れる余白を持たせます。選択肢を三択に絞り、比較軸を数値と写真で可視化すると判断がスムーズです。

標準的な設計スケジュール

・基本設計(1~2か月):プラン合意、概算見積
・実施設計(1~2か月):各部詳細、設備仕様、実行見積
・申請・着工準備(0.5~1か月):確認申請、発注、工程計画

合意と変更管理

・打合せごとに決定事項を議事録化、次回の宿題を明確に
・変更は「理由/影響範囲/コスト/納期」をワンセットで確認
・最新版図面のクラウド共有と版管理でミスを抑制

長く満足するための設計チェックリスト

最後に、着工前の最終確認に役立つ要点をまとめます。図面だけでなく、暮らしの導線や維持管理、光熱費まで“住んでから”の視点でダブルチェックしましょう。

暮らしと動線

・朝夕ピーク時の同時利用をシミュレーション
・洗濯・物干し・収納の距離を最短化
・室温が安定する居場所の確保

性能とランニング

・断熱等級・C値の目標と実測計画
・日射取得と遮蔽、庇寸法と窓装備
・空調・給湯の更新周期とメンテ経路

維持管理と将来変化

・点検口、掃除しやすい納まり、交換スペース
・子どもの独立後の間仕切り変更余地
・外壁・屋根の再塗装時期と足場計画

以上を押さえると、注文住宅の設計は「好き」と「合理」を両立できます。図面は目的ではなく、理想の暮らしを実現するための“意思決定の地図”。数値・写真・体験を使って納得の設計を積み上げていきましょう。

2025.10.10